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司法書士法施行規則31条業務の本質


司法書士法人 関根事務所
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司法書士法施行規則31条業務の本質

はじめに確認すべき点は、財産管理業務は、委任契約を締結できる自然人であれば、誰でも行うことができる業務であるということです。成年後見人として、国家資格を有しない親族が選任されることもあるように、財産管理業務そのものには、特別な資格や法令上の根拠は必要とされていません。

たとえば、不動産会社が大家から賃貸マンションの管理を委託され、賃料の回収や未収金の督促を行うようなケースがありますが、これは宅建業の免許すら不要であり、不動産会社の定款に「不動産賃貸管理」等の目的が記載されていれば、誰でも実施可能な業務です。

このような一般的な前提を踏まえたうえで、司法書士法施行規則第31条は、あくまで司法書士「法人」に適用される規定であることに留意する必要があります。

司法書士法第二十九条
司法書士法人は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。

(司法書士法人は、定款に定めても法令上規定されたものしかできないのです。)

司法書士法施行規則
第五章 司法書士法人 (司法書士法人の業務の範囲)
第三十一条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務
二 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務
三 司法書士又は司法書士法人の業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務
四 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成十八年法律第五十一号)第三十三条の二第一項に規定する特定業務
五 法第三条第一項第一号から第五号まで及び前各号に掲げる業務に附帯し、又は密接に関連する業務


司法書士会や日司連の研修の説明


一部の司法書士会の研修等において、「司法書士法施行規則第31条は法人に関する規定であるが、その反射的効果によって個人の司法書士にも適用される」あるいは「遺産承継業務を司法書士が業として行える根拠は31条にある」といった説明がなされることがあります。
しかしながら、これらの説明は法的に根拠が不明確であり、極めて誤解を招きやすいものといえます。

「反射的効果」という概念は、行政法で典型的に用いられるものではありますが、その用法は行政法に限られず、民事法や労働法など他の法分野でも用いられることがあります。ただし、司法書士法施行規則第31条のような司法書士法人の業務規定に、反射的効果を認めて自然人である司法書士個人に当然に適用されると解釈することには、明確な法的根拠がなく、合理性を欠いているといえます。
司法書士法においては、個人の司法書士と司法書士法人は明確に異なる法的主体として位置づけられており、法人に認められた業務範囲が自然人にも当然に及ぶとするためには、明文の根拠が必要です。このような効果を当然視することは、法的安定性や制度の適正な運用を損なうおそれがあるため、慎重な解釈が求められます。

また、遺産承継業務について「31条に業務根拠がある」とする説明も、見直しが必要です。遺産承継業務とは、相続人間の意思調整、遺産分割協議の支援、金融機関への届出、名義変更、不動産登記などを含む包括的な業務を指します。
このうち、不動産の登記手続については司法書士法第3条に基づく司法書士の独占業務に該当しますが、それ以外の名義変更や届出等の事務作業については、資格を有しない自然人でも行える一般的な事務にすぎません。
こうした一般的な業務についてまで、31条を根拠に「司法書士の業務である」と主張することは、司法書士の業務範囲を不適切に拡張することになりかねません。かえって司法書士自身が業務範囲を誤って認識する要因となり、将来的には業際的な混乱や不必要な懲戒リスクを引き起こす可能性があります。

実際に、一部の研修では次のような論理構成が見られます。
・司法書士が業として行うには、司法書士法上の根拠が必要である
・財産管理等の業務については、第31条をその根拠とする
・31条が存在しない他士業(たとえば行政書士)は当該業務を行えない

このような構成は、他士業や一般市民が本来担えるはずの業務に対して、誤った制限を課すおそれがあります。財産管理や委任に基づく名義変更などの行為は、法律上、自然人であれば誰でも行うことができるものであり、成年後見人として一般市民が選任されるケースも見られるように、資格の有無にかかわらず行いうる業務です。これらの業務を、司法書士が行う場合に限って法的根拠を求めるという構成そのものが、法的に成立しないものです。
司法書士の業務範囲は、司法書士法第3条や第29条といった明確な法令の規定に基づいて判断されるべきです。法人に対する規定である第31条をもって、個人の司法書士の業務根拠とすることは、制度の趣旨から逸脱しており、適切な法的構成とはいえません。

このような誤解が司法書士業界で広がることは、司法書士制度全体の信頼性に深刻な影響を与えかねません。したがって、日司連および各司法書士会においては、司法書士の業務範囲および第31条の解釈について、明確かつ正確な指導と周知が求められます。

職務請求書・保険制度と司法書士業務の法的範囲の関係



司法書士の業務範囲は、司法書士法およびこれに基づく政省令によって定められており、その法的根拠は明確に成文化されています。

そのため、司法書士の業務の可否については、あくまで法令の文言に基づいて判断されるべきであり、職務請求書の発行が可能か否か、あるいは賠償保険の補償対象に含まれるか否かといった周辺制度の運用によって左右されるものではありません。

職務請求書の利用規程は、あくまでも住民票・戸籍等の交付請求に関する手続的な制度であり、それを用いることができるかどうかは、司法書士法上の業務該当性の結果に過ぎません。また、賠償保険の提供範囲は保険会社が定める内部規定であり、これによって業務の適法性や司法書士法上の範囲が拡張・縮小されることはありません。

法令に基づく業務でなければ懲戒や刑罰等の処分を科すことはできないという「罪刑法定主義」の原則がある以上、司法書士の業務該当性についても恣意的な制度連動による解釈は排除されるべきです。

【司法書士法人関根事務所の解釈】


③国家資格者 = 一般人(自然人)+ 国家資格
国家資格者は、自然人ができれば当り前にできる。自然人は、国家資格を持っていても当り前にできる。
司法書士は法的根拠不要でできる。

司法書士法施行規則第31条は、司法書士「法人」の業務範囲を定めたものであり、自然人である司法書士に直接適用される規定ではありません。そのため、同条を根拠として個人の司法書士が財産管理業務を行うことが正当化されるという解釈は適切ではありません。自然人の司法書士が、司法書士法の独占業務に該当しない業務を受任する場合については、そもそも司法書士法上の懲戒や業務制限を論じる対象とはならないと考えられます。

それにもかかわらず、「31条により司法書士が当該業務を行える」「登録しているため処罰対象になり得る」といった見解が見受けられますが、これらは罪刑法定主義の趣旨に反する不当な解釈です。司法書士法の適用範囲は、法令により明示された独占業務に限られており、それ以外の任意業務については、懲戒の対象とする法的根拠に乏しいといえます。

また、職務上請求書の利用や、賠償責任保険の適用範囲といった制度上の運用が、司法書士法上の業務範囲を定義づける根拠となるものではありません。これらはあくまでも制度運用上の取り扱いに過ぎず、法的解釈を補完・拡張するものではないと考えられます。

たとえば、リーガルサポートのように司法書士名簿に基づく任意業務であっても、司法書士の独占業務とは位置付けられません。そのため、受任拒否や不当誘致といった懲罰規定の適用対象となることはありません。

もっとも、こうした業務の過程で、本人の同意を得ることなく第三者(例:リーガルサポート)に顧客情報を提供する行為については、委任契約上の善管注意義務に違反する可能性があります。さらに、社会的に相当性を欠くと評価されるような場合には、司法書士法第2条の「品位保持義務」に違反し、懲戒の対象となるおそれもあります。

なお、不動産売買の代理業務を反復継続して行う場合には、宅地建物取引業法の適用を受けることになります。この点は、司法書士に限らず、一般人であっても宅建業免許を有しなければ無免許営業となる可能性があるため、十分な注意が必要です。国土交通省の見解としては、買主が特定されている単発の取引で仲介する場合は宅建業に該当しないとされていますが、これは宅建業法上の判断に過ぎず、31条をもって無免許営業を正当化することはできません。

しかしながら、一部の司法書士がSNS等で「31条があるため、司法書士は宅建免許がなくても売買代理が可能である」といった趣旨の発信をしており、これが業界内外に誤解と混乱を招いています。こうした不正確な情報に対しては、制度の正確な理解を促し、正しい情報提供を徹底することが求められます。

加えて、司法書士会や日本司法書士会連合会(日司連)の一部研修においても、制度趣旨に照らして不適切といえる説明がなされている事例があります。たとえば、「31条は法人に関する規定だが、その効果が自然人の司法書士にも及ぶ」「遺産承継業務が司法書士の業務に含まれるのは31条に根拠がある」といった説明がその典型です。

こうした説明は、司法書士法および施行規則の法文構造を逸脱しており、制度趣旨との整合性にも欠けています。特に、一般人よりも国家資格者である司法書士の方が厳しい制限を受けるという逆転的な論理構成は、法的にも制度的にも合理性を持ちません。

このような不正確な説明に基づく研修動画や資料については、司法書士の職務に対する誤認を招くおそれがあり、速やかな訂正および削除が強く求められます。

さらに重要な点として、司法書士法人は、法的な設立根拠を司法書士法に基づいて有する必要があり、株式会社のように定款で自由に業務内容を定めることはできません。すなわち、たとえ一般人が自由に行える財産管理業務であっても、司法書士法人がこれを業として行うには、司法書士法施行規則第31条に列挙されている業務に該当する必要があります。これは、司法書士法人が業務を行うにあたり、司法書士法によって限定された枠組み内でしか認められていないことを意味します。



条文を読み取れていない可能性を示唆する内容


下記リンクの先の総会決議集をお読み下さい。
日本一の職場環境 司法書士法人関根事務所 日本司法書士会連合会に(仮称)「司法書士法施行規則第31条業務検討委員会」を早急に設置する決議


日本司法書士会連合会は、平成25年6月21日に開催された第76回定時総会において、司法書士法施行規則第31条に規定される業務の解釈および制度的位置付けを研究するため、「(仮称)司法書士法施行規則第31条業務検討委員会」の早期設置を求める決議を採択しました。

この決議では、司法書士法改正に時間を要する現実を踏まえ、既存の制度内で直ちに可能な業務拡充として、規則第31条に基づく「他人の財産の管理や処分等の業務」に注目し、これを積極的に推進するための委員会設置を求めています。

規則第31条が司法書士法人の業務を定めたものであることは明らかですが、決議文ではこの条文を拡張的に解釈し、司法書士個人にも適用可能な業務根拠であるとしています。さらに、弁護士法における弁護士法人の規定と並列して論じ、「司法書士と弁護士だけがこの種の業務を行うことができる」とする主張も展開されています。
また、相続財産の管理や有価証券の換価、解約、配分などの手続きは市民にとって煩雑であり、司法書士が専門家として担うことで市民の利益にも資するという論点が提示されています。成年後見制度における実績を根拠に、司法書士の倫理性と信頼性にも言及しています。

しかし、ここまで理解された司法書士の方であれば、上記決議の前提自体に重大な誤りが含まれていることに気づかれていることでしょう。
そもそも、規則第31条は司法書士「法人」の業務範囲を定めたものであり、自然人である司法書士に対して適用される規定ではありません。したがって、この条文をもって司法書士個人の業務拡充の根拠とすること自体、条文構造および制度趣旨に反しています。また、「他の法律により禁止されていないから司法書士ができる」という趣旨の論理展開も、国家資格者として司法書士法上の職域の法的限定性を無視した誤解であり、罪刑法定主義との整合性を欠くものです。

仮に自然人の司法書士が委任契約に基づいて財産管理業務を行う場合、それはあくまで一般人として行っているものであり、司法書士として行っているとはいえません。したがって、司法書士法に基づく懲戒や職責義務の適用も及ばないことになります。

また、「弁護士と司法書士のみが行える」と断定する記述については、あたかも法的に特権的な地位が付与されているかのような印象を与えかねず、制度の実態を誤って伝える表現といえます。財産管理業務の多くは、法律上の独占業務に該当するものではなく、法令に反しない限り、資格の有無を問わず誰でも受任しうるものであることは、基本的な法理解の一つです。
こうした記述が公的決議文の中でなされていることは、決議に関与した理事らが、規定の文言や構造を正確に読み取れていない可能性を示唆するものであり、法令解釈の精度に疑義を生じさせる結果となっています。制度の運用を担う立場にある者が、法文の趣旨や体系を踏まえた慎重な判断を欠いたまま、特定業務を「司法書士固有の業務」と誤認したまま政策を進めようとすることは、司法書士制度全体の信頼性を損ねるおそれがあります。

したがって、制度上の根拠や法令構造に即した解釈を前提としない拡張的議論は、職域の在り方や市民の権利にまで影響を及ぼしかねず、連合会としてもその責任を自覚し、冷静かつ法的整合性に基づいた再検討が強く求められます。




31条業務は、司法書士の独占業務ではなく、そもそも司法書士が関与する必要もなく、自然人であれば誰でも行うことができる内容です。したがって、税理士や行政書士、さらには株式会社であっても、法令上は対応可能な業務であるといえます。

一部には、これらの業務を司法書士にしかできないものと捉えたい方もおられるかもしれませんし、成年後見制度が国連から勧告や批判を受けている事実について、あまり触れたくない方もいるかもしれません。しかしながら、法令解釈上は前述の通りであり、現行制度の枠内で正確に理解されるべきです。

成年後見制度については、制度設計上の問題点が多数指摘されており、将来的に安定的・永続的な制度として継続できるかには疑問があります。

また、ここ10年で司法書士試験の受験者数が大きく減少し、合格者の高齢化が進んでいます。その影響からか、時間をかけて技術を磨く姿勢が後退し、短期間で可能な業務や、特定の一部だけを取り扱う定型化・単純化された業務に偏る傾向も見受けられます。このような流れは、司法書士業界全体の人的資源の質の低下を招き、ひいては司法書士制度そのものの信頼性を損なう可能性があると危惧されます。

司法書士にとって、本来の中核的業務であり、法的にも歴史的にも独占性が認められている登記業務こそが、最も重視されるべき領域です。この分野には高度な法令知識と実務経験が不可欠であり、長年の修練が求められます。次世代の司法書士には、こうした専門性を備えた登記実務に真摯に向き合い、司法書士でなければ対応できない業務の担い手として、制度の信頼と公共性を守っていっていただきたいと願っております。

追記
(信託登記が無い場合の)信託契約書の作成が司法書士の業務かどうか。
信託登記を伴わない場合における信託契約書の作成業務が、司法書士の業務に該当するかどうかは、現行法上きわめて慎重な検討を要する論点です。

この業務を、司法書士法施行規則第31条、いわゆる「31条業務」に基づき司法書士が取り扱えると主張する向きもありますが、同条は司法書士法人の業務範囲を示すものであり、かつ司法書士の独占業務ではない業務を列挙しているに過ぎません。したがって、「31条にあるから司法書士ができる」という主張は、逆に言えば「司法書士でなくても誰でもできる業務である」という前提を肯定することになり、業務独占の根拠にはなりえません。

とりわけ重要なのは、この種の契約書作成行為が、弁護士法第72条に抵触する「鑑定」行為に該当するかどうかという法的リスクです。信託契約は、財産の名義、権利の帰属、受益者の指定、履行義務など、複雑かつ専門的な法的判断を伴います。このような法的利害関係を伴う契約書を作成する行為は、法律上の評価や判断を提供するものであり、「法律事件に関する鑑定」行為に該当する可能性が高いとされています。

弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得て法律事件に関する鑑定や代理を行うことを明確に禁止し、かつ刑事罰の対象とする規定であり、これに違反すれば司法書士や行政書士であっても処罰の対象となります。したがって、「契約書の作成は単なる文書作成行為である」との形式的説明だけでは正当化できず、その内容が実質的に法的判断を伴うかどうかが重要となります。

確かに、認定司法書士が関与できる訴額140万円以下という制限の範囲であれば、取り扱い可能とされるかもしれませんが、信託契約という制度の特性上、実務でそのような少額の信託が構築されるケースはほとんどありません。よって、認定司法書士の枠組み内で処理可能という整理も、実務的には意味を持ちにくいのが現実です。

また、公正証書として信託契約書を作成する場合においては、その作成権限はあくまで公証人に専属しており、司法書士が主体となって作成することはできません。この点も、司法書士が契約書作成の主体であるかのような誤解を招かないよう注意が必要です。

結論として、信託契約書の作成を司法書士業務として正当化するには、31条の形式的引用や制度内解釈だけでは不十分であり、弁護士法との整合性と「鑑定」に該当するか否かの慎重な検討が不可欠です。業際問題を回避するためには、明確な立法的根拠の整備を伴う制度改正が必要であり、既存の条文解釈に依存するだけでは制度的リスクを免れません。
AI契約書審査サービスと弁護士法72条AI契約書審査サービスと弁護士法72条



これは31条とはまったく関係のない問題ですが、行政書士と兼業している司法書士の中に、行政書士の名義を隠れ蓑として、葬儀社に対して20%のキックバックを宣伝材料にしている者が存在します。

「行政書士として支払っているから問題ない」と説明しながら、実際には登記業務を受任している司法書士がいます。しかし、司法書士が登記という独占業務を受任し、そこから得た報酬を一部還元するかたちで紹介者に支払っている以上、たとえ行政書士名義であろうと、株式会社名義であろうと、別の組織名義であろうと、司法書士法上は明白に「不当誘致」に該当します。

形式的な名目や名義をいくら取り繕っても、本質的には司法書士としての業務によって収益を得ており、その報酬を介した紹介料やキックバックは、明確に禁止されている行為です。

たとえば、金融機関に対して意味不明な復代理人を形式的に挿入し、報酬に見合う業務をしていないにもかかわらず、委任状の発送だけで2万3千円の報酬を支払い、そこから紹介料をキックバックしていたとすれば、これは形式を問わず不当誘致です。

これは司法書士法上の不当誘致の問題であり、司法書士法人が財産管理業務を行えるとする31条とはまったく無関係の話です。名義や制度の違いを盾にして違法性を隠そうとするような行為は、司法書士制度の信頼そのものを揺るがすものであり、断じて看過できるものではありません。

追記(2024年2月21日)】


上記、成年後見制度の永続性にはこれまで疑問が呈されてきましたが、大幅な改善に向けた改正が進んでいるようです。

まず、成年後見制度についてですが、高齢化によるニーズの増加と内容の多様化が進む中、制度の使い勝手や柔軟性、効率性が十分とは言えない現状にあります。公平性や公正性については確保されているものの、利便性や効率性の観点からは見直しの必要があると考えられます。

成年後見制度に対する主要な指摘としては、例えば遺産分割が完了しても判断能力が回復しない限り制度の利用をやめられない点や、後見人に包括的な取消権・代理権が付与されており、本人の自己決定が必要以上に制限される可能性がある点などです。さらに、本人の状況の変化に応じた後見人の交代が進まず、適切な保護が受けられないという問題も指摘されています。

こうした課題を踏まえ、2026年の改正を目指して、これまで終身利用が前提だった成年後見制度を、一時的な利用が可能な制度へ改正する動きが本格化しています。
現状では、成年後見制度の利用は、主に不動産売却や遺産分割協議による財産の現金化を目的とする場面で申立てが行われています。都内の不動産であれば数千万円規模の資産が対象となることも多く、職業後見人の選任が事実上義務のような形となり、高額な報酬負担(最終的に数百万円規模)に対する親族の強い不満が背景にあります。

このため、今後は財産管理を原則として親族に委ね、契約などの特定の場面でのみ一時的に司法書士を成年後見人として関与させる方向への改正が想定されます。

裁判所にとっても、終身的な関与が不要となれば、人的・制度的な負担の軽減にもつながります。例えば従来は96ヶ月(8年)にわたって後見報酬を支払っていたものが、遺産分割協議や売買契約などを終えた3~4ヶ月程度で後見業務が終了し、司法書士が退任するような仕組みに変わる可能性があります。成年後見業務は9割以上の削減が見込まれるという試算もあります。

ただし、過疎地域において親族がいない、あるいは生活保護を受けている方などのケースでは、今回の制度改正による影響は限定的と見られます。

一方、制度の利便性が向上しコストが抑えられることにより、信託登記を選ぶインセンティブが低下し、信託登記の利用も減少する可能性があります。成年後見の申立て件数自体はむしろ増加することも考えられます。不動産売買を目的とした後見申立てにおいて、従来のようなコスト面での心理的障壁が解消され、より業務が受任しやすくなるでしょう。

また、不動産売買に伴う登記業務は、制度の影響を受けにくく、引き続き司法書士業務の中核として安定的に継続されると見込まれます。

成年後見業務に依存していた司法書士が急増していた一方で、業務単価が低く、平均年収の低下や受験者数の減少、若年層の離脱、合格率の上昇(2%→5%)といった課題も同時に発生していました。今回の改正により、その流れが一変する可能性があります。

成年後見業務の縮小とともに合格者数の調整がなされれば、司法書士の質的向上が期待され、登記特化型司法書士としての専門性が再評価される流れになるかもしれません。
成年後見制度の利用者は約180万人とされており、1人当たり30万円の年間報酬で換算すれば、540億円規模の市場が失われる可能性があります。司法書士業界はEAJ問題で既に300億円相当の市場を失っており、今回さらに500億円以上が失われることになります。こうした状況に対し、合格者数の調整を怠れば、業界の崩壊すら現実味を帯びてきます。

なお、資産を保有している被後見人の場合、親族が後見人報酬による資産減少を避ける動機から、今回の制度改正の方向性に沿った選択がなされることが予想されます。一方で、生活保護受給者のように親族が関与しない事例では、コスト削減のインセンティブが働かず、一時利用という考え方が広まりにくいかもしれません。この点は、成年後見制度の問題というよりも、生活保護費や税金の使途の在り方に関わる問題と位置付けるべきでしょう。

生活保護受給者に対する成年後見制度の今後の適用については、市区町村による直接的な関与や委託が現実的であり、司法書士が必ずしも必要ではないとする方向になる可能性もあります。

さらに注意すべきは、司法書士法施行規則第31条について、法人規定にすぎない条文が、あたかも個人司法書士に独占業務として適用されるかのような誤解を生む研修が横行している点です。こうした誤解に基づく研修を受けた司法書士には、今回の改正の本質が理解されにくいでしょう。

成年後見制度の一時利用は、特別代理人制度に近い構造を持つことになり、実務上もそのように運用される可能性があります。特別代理人にはリーガルサポートの介入がありませんので、同様に親族が後見人となることが制度設計上の原則になることも想定されます。結果として、司法書士およびリーガルサポートのいずれも後見人として関与しない構造に移行する可能性があり、制度として過剰なサービスや非効率な構造が整理される方向に進むと見られます。

参考: 司法書士連合会総会決議集「成年被後見人等が生活困窮状態にある場合に、介護保険又は生活保護のような全国一律で安定的な制度に基づき成年後見人等の報酬が支給されるよう、日本司法書士会連合会が調査提言活動等を行うことにつき承認を求める件」
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00486.html


また、今後は相続登記の義務化とともに、戸籍を一括取得できる制度が導入される予定であり、本人申請による相続登記が増える可能性も指摘されています。その結果、司法書士による受託件数は減少するかもしれません。

広告費を投じなければ業務を獲得できない時代が到来し、司法書士業界は過当競争に直面することになります。四流五流の司法書士が二流三流の業務領域に流入するなか、多様な業務範囲・正確な法令解釈・的確な集客戦略・鋭い分析力を有する「一流の司法書士」だけが生き残る時代となるかもしれません。


タイトルをクリックしていただくと条文が閉開します。

司法書士法第三条(業務)

司法書士法
(業務)
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五 前各号の事務について相談に応ずること。
六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ロ 民事訴訟法第二百七十五条の規定による和解の手続又は同法第七編の規定による支払督促の手続であつて、請求の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ハ 民事訴訟法第二編第四章第七節の規定による訴えの提起前における証拠保全手続又は民事保全法(平成元年法律第九十一号)の規定による手続であつて、本案の訴訟の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ニ 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)の規定による手続であつて、調停を求める事項の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ホ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第二章第二節第四款第二目の規定による少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
七 民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。
八 筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第百二十三条第三号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の二分の一に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること。

2 前項第六号から第八号までに規定する業務(以下「簡裁訴訟代理等関係業務」という。)は、次のいずれにも該当する司法書士に限り、行うことができる。
一 簡裁訴訟代理等関係業務について法務省令で定める法人が実施する研修であつて法務大臣が指定するものの課程を修了した者であること。
二 前号に規定する者の申請に基づき法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること。
三 司法書士会の会員であること。

3 法務大臣は、次のいずれにも該当するものと認められる研修についてのみ前項第一号の指定をするものとする。
一 研修の内容が、簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力の習得に十分なものとして法務省令で定める基準を満たすものであること。
二 研修の実施に関する計画が、その適正かつ確実な実施のために適切なものであること。
三 研修を実施する法人が、前号の計画を適正かつ確実に遂行するに足りる専門的能力及び経理的基礎を有するものであること。

4 法務大臣は、第二項第一号の研修の適正かつ確実な実施を確保するために必要な限度において、当該研修を実施する法人に対し、当該研修に関して、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又は必要な命令をすることができる。

5 司法書士は、第二項第二号の規定による認定を受けようとするときは、政令で定めるところにより、手数料を納めなければならない。

6 第二項に規定する司法書士は、民事訴訟法第五十四条第一項本文(民事保全法第七条又は民事執行法第二十条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、第一項第六号イからハまで又はホに掲げる手続における訴訟代理人又は代理人となることができる。

7 第二項に規定する司法書士であつて第一項第六号イ及びロに掲げる手続において訴訟代理人になつたものは、民事訴訟法第五十五条第一項の規定にかかわらず、委任を受けた事件について、強制執行に関する訴訟行為をすることができない。ただし、第二項に規定する司法書士であつて第一項第六号イに掲げる手続のうち少額訴訟の手続において訴訟代理人になつたものが同号ホに掲げる手続についてする訴訟行為については、この限りでない。

8 司法書士は、第一項に規定する業務であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、これを行うことができない。


司法書士法第二十九条(業務の範囲)

司法書士法 (業務の範囲)
第二十九条 司法書士法人は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。
一 法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部
二 簡裁訴訟代理等関係業務

2 簡裁訴訟代理等関係業務は、社員のうちに第三条第二項に規定する司法書士がある司法書士法人(司法書士会の会員であるものに限る。)に限り、行うことができる。


司法書士法施行規則第三十一条(司法書士法人の業務の範囲)

司法書士法施行規則
第五章 司法書士法人 (司法書士法人の業務の範囲)
第三十一条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務
二 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務
三 司法書士又は司法書士法人の業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務
四 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成十八年法律第五十一号)第三十三条の二第一項に規定する特定業務
五 法第三条第一項第一号から第五号まで及び前各号に掲げる業務に附帯し、又は密接に関連する業務


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